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「情熱を失わないこと」後編

インタビュー

「情熱を失わないこと」前編 より続きです。

 

日本の移植医療の問題点

 

――移植分野では日本からアメリカに臨床留学される先生が比較的多いように感じます。やはりアメリカの方が移植医療は進んでいるのでしょうか?

 

アメリカの方が移植医療は進んでいますね。

移植で臨床留学する日本人が多いのは、移植外科があまりにも激務のため、アメリカ人の医師の中であまり人気がないということもあります。

移植外科のFellowshipはUCSF(University of California, San Francisco)など人気のところは定員がすぐ埋まりますが、Massachusetts州などであまり症例数の多くない移植病院ではFellowを確保するのが大変です。

Fellowがいないと日常の臨床が立ち行かなくなるので、マッチングに失敗したら外国人でも取らざるを得ない。

そういう意味では研究留学だけでなく臨床留学でも、移植外科においてはチャンスがあるということになります。

 

 

――先生は日本で移植が進まない問題点はどういうところにあると考えておられますか?

 

まずはドナーの数が少ない事ですね。脳死の患者さんは日本にもたくさんいますが、移植を勧めようにも、ただでさえ人手不足の病院の場所と時間を取られ、患者家族への説明もしなければいけない、さらに経済的には失う方が大きいというのでは積極的に移植に関わろうとする病院は増えません。

 

 

 

 

ただ、病院に移植ドナーを出すインセンティブを与えるなどすれば日本でも確実に移植は増えると思います。

そのような方法で韓国は従来のシステムを改善し移植ドナーを大幅に増やしています。

昔、当時の上司であった東京女子医科大学の太田和夫教授と脳死法案を作ろうと議員会館まで行って片端から議員に直談判しに行って脳死法案は通ったのですが、残念ながらその後も状況はあまり変わっていません。

(太田教授の話は、河合先生寄稿の日経メディカルKUROFUNET「今日は君に苦言を呈する」に掲載されています。)

 

あとは内科医の理解ももっと必要です。

米国には腎移植専門の内科医がおり、内科医も積極的に移植医療に携わっていますが、日本の内科医にはそういった新しい領域を開拓していこうという意欲がないように思われます。

腎臓内科医でも透析で開業してしまえば腎移植を勧めるインセンティブも失ってしまいますよね。

 

 

――日本で移植医療が進まないのは必ずしも法律や日本人の死生観だけの問題ではなく、システムの問題もあるという事ですね。

 

――アメリカは日本の国民皆保険制度と異なり、プライベートな保険が主流ですが、アメリカで移植医療を受けられる人はいい保険に入っているような人だけでしょうか?

 

そういう事でもないです。

例えば、アメリカでは腎不全と診断されればメディケアという公的保険で腎移植を含めた医療を受けることができます。

また肝移植でも所得の低い患者さんはメデイケードという公的保険で移植は可能です。

 

それよりも、家庭環境が悪く、移植後の家族のサポートがない等、移植してもその後の適切な管理が難しい場合などソーシャルな理由で除外されることはあります。

 

 

 

 

 

 

ロールモデルをたくさん知る

 

――リサーチを考えたタイミングは?

 

医師になって初めの10年間は臨床に打ち込んでいました。

臨床で一通り自立してできるようになったタイミングで当時のMGHの移植外科の教授であるA.B.Cosimi先生と学会で出会い、留学を申し込んだところ快諾して頂きました。

MGHではサルで免疫寛容を誘導する事に成功し、それを臨床で実現することがライフワークとなりました。

 

 

 

 

――学生時代にしていてよかったことは?

 

学生の頃にしていてよかったことは毎日ハリソン内科学書を読んでいた事です。

ハリソンはやはりPrincipe of Internal Medicineというだけあって病気の記述の羅列ではなく、プリンシプルというものが感じられるので読んでいて面白く、一切苦痛はなく読むことができました。

 

 

――留学を考えている方にアドバイスはありますか?

 

まずは自分の興味のある範囲の論文を検索して、行きたいラボを決める事。

どんな研究を行っているかを把握して、自分が何をしたいかをきちんと伝えられればきっと先方は会って話を聞いてくれるはずです。

私のところにも毎週たくさんの応募メールが来ますが、多くはランダムにいろいろな所に出しているようなメールですから返事もしません。

 

 

――米国の医療界で中国人やインド人に比べ、日本人の存在感が薄いように感じましたが、先生はどのようにお考えでしょうか?

 

 日本人は留学先でもっとお互いに助け合う事が必要だと考えています。

私はMGHの中で日本人会を作るなどの取り組みを行ったり、日本からの学生やポスドクの留学も受け入れるなどしています。

ただ、特定の大学と提携するという事はせず、自分の意思で勉強しに来たいと思っている学生の留学を受け入れたいですね。

その方が本人にとってもハッピーですから。

 

 

――全国の医学生に一言お願いします

 

 やっぱり情熱のある先生にすごく刺激されますよね。

私も学生の頃は米国で臨床をして帰国したドクター達を非常に新鮮に感じました。

卒業してからは女子医科大学の太田教授と知り合って、仕事の仕方、人生の生き方など学びました。

若いうちはそういった自分のロールモデルとなるような人たちをたくさん知ることがとても重要だと思います。

 

また、学生時代から自然科学にすごく興味があり「Cosmos」や「Big Bang」などの宇宙本にも没頭しました。

たとえ知識としては正確でなくても、科学に対する憧れとか情熱を時間のある学生時代に醸成してもらいたいと思います。

その情熱さえ失わなければ、医師になって日々の臨床に忙殺される中でも、いつか本質的に自分のしたいことはなんだったのか思い出して自分の人生に生かしていけるでしょう。

 

 

インタビュワーあとがき

 

ハーバード大学の基幹病院で世界的にも有名なボストンのMGHに取材に行ってきました。

移植外科医として臨床と研究の両方をこなし、ハーバード医学部の外科教授でもある河合先生は、落ち着いた雰囲気で、とても暖かい雰囲気を持たれている方でした。

後進教育にも熱心で、日本の医学部から来た学生の実習も積極的に受け入れられていました。

 

今回は「臓器移植」に関してインタビュー以外にもたくさんのお話しをさせていただきました。

 

年間およそ2万5000件も移植が行われるアメリカに対し、日本は年間およそ300件程度に留まり、待機中に亡くなってしまった患者さんは6518人にのぼります。(1995年~2018年7月31日、臓器移植ネットワーク登録者)

 

1968年の和田事件以降の移植医療に対する強い不信感から長い停滞期を経て、1997年に臓器移植法が施行されてからも、その件数は少ないままで、そのなかでも特に6歳未満の子供からの提供が少ないのが現状です。

 

そして、日本で移植医療が受けられない場合、海外渡航して移植医療を受けるという選択肢がありますが、医療保険がないのでその費用は莫大なものになってしまいます。

受け入れ先の米国からは、自国で移植を行わない日本に対して批判もあります。

2008年の国際移植学会では「移植が必要な患者の命は自国で救える努力をすること」というイスタンブール宣言も採択され、海外での臓器移植はますます厳しくなってきています。

 

日本の移植医療の問題は死生観や法整備で語られがちですが、河合先生は全国の病院の体制整備や移植コーディネーターの不足、移植専門の内科医の必要性を語られていました。

国はリーダーシップを発揮し、それを推進するインセンティブ構造を作れるかが重要なポイントだと感じました。

アメリカや韓国など参考にできる例は多いのではないでしょうか。

 

手術後に、患者のドナーでもあるお父さんが、泣きながら河合先生に感謝していたシーンはとても印象的でしたが、健康な人の身体にメスを入れるという事に複雑な思いも抱きました。

 

このような文脈から、ドナーの不足という点に関し、個人的にはヒトの臓器を作るように遺伝子に改変を加えたサルやブタから作成した臓器を用いて、臓器移植を行うゼノグラフトに可能性を感じました。

 

実際にボストンには「e-Genesis」というゼノグラフトを用いた移植の実現を目指すベンチャー企業がハーバード大学の医学部のジョージ・チャーチ氏によって創業され、CRISPR/Cas9でブタのゲノムに組み込まれていて移植後感染症が危惧されていたPERV (Porcine endogenous retrovirus) をノックアウトしたブタの作製に成功しています。

現在、30億ドルの資金調達を得て、MGHと共同で臨床試験を目指しています。

 

一刻も早く1人でも多くの命を救うために、臨床現場だけでなく色んなステークホルダーを交えた議論を活発化していく事が重要だと感じました。

 

 

「情熱を失わないこと」後編 終わり

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