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「自分で選び、自分で責任を取る」後編

白井 敬祐先生

「自分で選び、自分で責任を取る」前編 より続きです。

 

腫瘍内科医にみる、がん患者さんとのコミュニケーションスキル

 

――白井先生の外来に入らせてもらって先生のがん患者さんとのコミュニケーションの取り方がとても印象的でした。時に冗談を織り交ぜたり、時に率直な意見からはいったり、個人個人の状態に合わせてコミュニケーションを使い分けているように感じましたが、普段の外来で意識されていることはありますか?

 

まず一人一人の患者さんに合わせる事はすごく大事だと思います。血糖値を見てインスリンの量を変える、血圧を見て血圧の薬を調節するといった事と全く同じようにコミュニケーションのスタイルも患者さんによって変える必要はあります。

 

例えば、画像のフォローアップで来ている患者さんの場合でしたら、頭の中は今日の画像がどうだったかでいっぱいですよね。そういう場合に普通に順序通り診療を始めるよりも、画像結果をまずは伝える事から始めて、その後に通常の診察した方がいいですよね。

 

――がん診療の場合、初診時にはシリアスな事実を伝えるといった事も多いと思いますが、そういった場合は白井先生ならどのようにお伝えされますか?

 

まず一番大事なのは「どのように聞いているか教えてもらう」という事です。「僕は自分なりの考えはあるけれど、あなたはどういった経緯で、来られているのか、どう聞かれているか、どう理解されているかを教えてください」と言って診療に入っています。

 

――その時に患者さんの今の理解を聞いてそれに合わせたコミュニケーションスタイルを考えるわけですね。

 

そうです。患者さんによっては画像だって見たくない人もいるので、そういった点も確認する事が大事ですね。フェローの時は”Don’t assume!”(決めつけないように!)とよく言われましたね。こうだろう、ああだろうと決めつけずに、必ず患者さんに聞きなさいと言われましたね。

 

また、ギャップがどこにあるのか探す事も重要です。患者さんの想いと医療者の見立てのどこにギャップがあるのか。言語が変わっても基本となるコンセプトは変わりません。

 

――先生の診察を見学させて頂いて、背景の異なる色んな癌患者さんがいる中でそれぞれに合わせた雰囲気を作るのがすごく上手で、プロフェッショナルな技術を感じました。一方で、最近はSICG(Serious Illness Conversation Guide)ができるなどこういったスキルをプロトコール化しようという運動もありますよね。

 

そういった運動も患者さんの不安を和らげるのにとてもいいと思います。

 

例えば、いきなり「今のあなたの不安はなんですか?」とか聞かれると「え!?」ってなっちゃいますよね。その前に「外来に来られている全ての患者さんに聞いている質問なのですが」と一言入ると、余計な不安をする心配は減りますよね。それだけでなく、「何を聞いていいかわからない」という、医療者側の不安を減らすのにも効果があります。

 

それがこの運動の狙いだと思います。コミュニケーションが上手い下手で左右されるのではなくて、苦手な医師でもできるようにしようという事ですね。

 

 

――プロフェッショナルな技術を持つ緩和医療専門の医師だけではなく、がん診療に携わるすべての医師のコミュニケーションスキルのボトムラインを上げるというイメージですね。

 

 

医療の「不確実性」をきちんと伝える

 

――最近ノーベル賞を受賞した免疫チェックポイント阻害剤が話題となっていますが、一方でがんの万能薬であるかのような誤解も生みだしています。先生はそういった免疫チェックポイント阻害剤に高い期待をもたれている患者さんにはどのように対応されていますか?

 

その話は最近とても話題でJCO(Journal of Clinical Oncology)にも高い期待にどう対応するかといったエッセイがでています。(参考:http://ascopubs.org/doi/abs/10.1200/JCO.2017.76.2146

 

 

従来の化学療法に比べ実際に効いた人は長続きするし、副作用の頻度は少ないですが、当然治療の副作用で亡くなる方もいるし、みんながみんなに効く万能な薬ではない。2019年の時点ではどういった人に効くのかもわからない。やってみないとわからないという不確実性があるということを説明します。

 

つまり、免疫チェックポイント阻害剤だけに限らす医師はそういった「医療の不確実性」に関する部分をきっちり説明することが大事だと思います。

 

例えば、統計上は平均生存期間が12か月といっても、目の前の患者さんが実際に12か月生存するかはわかりません。そういった「幅」のあるものを如何に伝えるか、コミュニケーション能力の必要なところではあると思います。実際には平均値でも知りたい人もいれば、そういった情報は一切知りたくないという人もいますから。

 

 

――光免疫療法も最近何かと話題になっていますね

 

光免疫療法は私の京大の先輩にあたる小林先生がされている研究です。まだ研究段階ですがMD Andersonなどで臨床試験もされていますね。まだ光を照射するためのデバイスが必要なために表面にある癌を中心とした臨床試験しか行われてないようですが、デバイスを工夫すれば膵癌などにも使えると言われています。すごく今後が期待されている治療の一つだと思います。

 

 

――臨床試験は頭頚部癌などで行われていますね。光免疫療法もがん診療の「game changer」となる可能性を秘めていそうですね。

 

 

自分で選び、自分で責任を取る

 

――最後に全国の学生に一言お願いします

 

「何かを選ぶという事は何かを捨てるという事」でもあります。

 

アメリカで医師をするという事は、同時に日本での生活を捨てるという事でもあります。

日本では呼吸器内科医になると気管支鏡などの手技も化学療法も経験する事ができますが、アメリカでは各科ごとにきちんと役割分担がされていて、腫瘍内科医になると化学療法はできても、基本的には手技はしません。

 

またアメリカでも開業医グループで腫瘍内科医となれば乳癌も大腸癌も肺癌も多くの種類の癌を診ますが、大学病院で腫瘍内科医となれば何かに特化する必要があるので全部の癌を診るという事は捨てなければいけません。学生の皆さんにはそういった一面も是非知っておいてほしいとおもいます。

 

――自分のキャリアイメージとマッチしているかどうかを考える必要があるということでしょうか?

 

でも私自身このようなキャリアを思い浮かべていたかと言うとそういうわけでもありませんでした。私の場合は完全に行き当たりばったりで今のキャリアに至っていたという感じです。

 

ただ、「自分で選ぶ、だから自分で責任をとる」ということは意識してきました。日本で放射線腫瘍医を経験していたことがきっかけで面白がって色んな施設から腫瘍内科のフェローシップの面接に呼んでもらえましたし、フェロー1年目でスタッフとして残らないかと誘ってもらえました。当時、周りで悪性黒色腫を専門にしている人がいなかったから悪性黒色腫を専門にしました。そしたらそれがダートマスにくるきっかけにもなったという感じですね。緩和医療に興味があってずっとやっていたら今ではダートマス大学の学部生や医学部生、工学部の大学院生にも講義しに行くようになりました。

 

Dartmouth College正門

 

 

――意外でしたが偶然の積み重ねでキャリアが形成されるのですね。それにしても第2外国語として英語を話す白井先生が英語を母国語にしているダートマスの学生達にコミュニケーションを教えるというのはすごいですね(笑)

 

基本のコンセプトは言語が変わっても変わりませんからね。ギャップがどこにあるのか探すという事です。患者さんの想いと医療者の見立てのどこにギャップがあるのか。

 

学生の内はやりたいことをやってみる事が大事だと思います。何にしてもまずは飛び込んでみないとわからない事は多いですから。一般的に論じられる日本の医療にしても、実際に見学に行ってみると病院ごとに違うカルチャーがあるという事にも気が付くはずです。

ともすると何でも一般化しがちですが、実際に見てみると実は個別に色んな違いがあるという事に気が付きます。

 

 

インタビュワーあとがき

 

ニューハンプシャー州にあるアイビーリーグの名門校、ダートマスの基幹病院であるDartmouth-Hitchcock Medical Centerに訪問し、侍オンコロジストとして著名な腫瘍内科医、白井先生にお会いしてきました。

 

白井先生の下で3週間、腫瘍内科の見学をさせて頂きました。科には様々な腫瘍の専門医がおり、横の区画では外科の専門医もいるなど、「がん」を中心に多くの専門医、コメディカルが一丸となって診療にあたっている様子がとても印象的でした。

 

実習中は毎日色んなOncologistの先生方の外来に入らせて頂きました。癌の患者さんとどのように向き合い、どのように医療情報を伝えるのか、すごくシビアな状況もありましたが、色んなスペシャリストの先生方のアプローチを身近に見られたことはとてもいい経験でした。

 

また、腫瘍内科フェローの先生方の勉強会やカンファレンスにも多く参加させて頂きました。カンファレンスやレクチャーでは日々アップデートされていく論文や研究の結果が引用され、とてもついていけていない感じがした事も多く、毎日様々な論文を読んだりして勉強しましたが、白井先生から「発展著しい腫瘍内科の分野では知識はすぐに変わっていくので、学生の内は細かい知識より診療のAttitudeを学んでほしい」と言われ、ハッとし、肩の力が少し抜けた気がしました。

 

 今や日本では2人に1人ががんに罹患し、3人に1人ががんで亡くなる時代です。一方で、がん診療は免疫チェックポイント阻害薬、CAR-T療法など日々進歩し、複雑化してきており、臓器横断的に様々な治療、支持療法、緩和療法に精通する腫瘍内科医の社会的ニーズは日増しに高まっています。まだまだ日本では各科毎のがん診療が主流だと感じますが、全国で腫瘍内科がぞくぞくと立ち上がってきており、これからのさらなる日本のがん医療の発展を期待されています。

Dartmouth Collegeの図書館

 

「自分で選び、自分で責任を取る」おわり

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