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「今日を掴む」後編

インタビュー

「今日を掴む」前編

より続きです。

 

一人一人の「責任」を認識しているか

 

――これからの医師のキャリアとは?

 

医師に限らず、「個人」としてのキャリアを築くことが大事だと思います。「組織」に縛られたキャリアを歩む弊害は神戸製鋼のスキャンダルなどにも見て取れるでしょう。

 

戦後70年弱で世界史に残る福島原発大事故(「第2の敗戦」とも言われる)、この「歴史的」大災害もこのような社会構造によって引き起こされた「人災」です。責任ある立場の人たちは肝心な時にしばしばその責務を果たさない、責任もとらない、雰囲気で物事が決まる、そして最後には国民が犠牲となる。そして出てくるのが定番の「空気」で、「単線路線のエリート」たちは失敗から学ばない、だから同じ過ちが繰り返されるわけです。

 

今までは進学校に入るためだけの勉強をしてきたから、いざ目的の大学に入ってからは勉強しないという事が起きます。留年させても国立大学の予算は同じなので、それならそのまま卒業させてしまうという事になります。つまり、勉強してなくても卒業できる。それでは「個人」としてのキャリアを築くことはできませんよね。

 

医学部生は国家試験があって、患者さんという相手がいるからまだ勉強する傾向にありますが、その先に「個人」としてのキャリアを築く事が重要だと思います。

 

――黒川先生は日本に帰ってきて、実際にどのような教育を実践されたのでしょうか?

 

内科に進む人は研究してもしなくてもいいが、必ず日本の基礎の研究所で1‐2年勉強してもらい、アメリカに行かせましたね。すると、内科の人はあとあと論文を見るとき、論文がしっかり読めるようになります。一つのFigureやTableだけでも、それを出すのにどれだけの苦労があるのかが実体験としてわかるようになります。そのためにアメリカに行ってもらっていました。必ずしも研究者になる必要はないと思っています。

 

臨床が好きな人、教育が好きな人、研究が好きな人、人によって違います。その違いを理解する事も大切な事です。

 

また、「How to」を教えるのではなくて「Why」を考えさせる方が大事です。ノウハウはすぐに忘れてしまいます。Michael Porterを社長にして何でもうまくいくというわけではありません。孫さんや柳井さんの話を聞く方がいいかもしれません。彼らは常にアゲインストの風に立ち向かってきている人たちですから。

 

――「実体験」として理解するようになるという事ですね。

 

そうです。また、日本は近代西欧でルネッサンスを経て発展してきた「学術の精神」を本当の意味で理解できていないのではないかと感じています。例えば、PhDという学位はドイツでは大学のポスト獲得に必要な学位だったのですが、日本もそれを真似して取り入れたのが始まりです。しかし、ドイツにおいてPhDは確かに教授になるために必要だが、割と誰でももっていて、開業医でもプロフェッサーと呼ばれる人もいます。講座のポストと一致しているが、講座のポストをとったからといって全面的に権力があるわけではありません。日本は形をマネするのは上手ですが、その哲学的な背景や精神は学んでいないと言えるかもしれません。マインドセットは江戸時代のままで、lost in translationに陥っている。それでも成長してきたからという実績があるから変わらないわけです。

 

――日本という国の性質を理解した上でシステムを作り直す力がないということでしょうか?

 

過去300年は西洋のシステムの在り方、構造、機能は日本の憧れであり、また目的でした。しかし、実際西洋のシステムが形作られてきた歴史的な背景にある哲学を理解してこなかった。形だけをまねしてきたのだと思います。

 

だから、日本人にSteve Jobs(Apple創業者)のフィロソフィーは理解出来ません。Jobsは大学を中退しています。だからJobsに偏差値秀才の東大生達が負けるわけです。

 

システムが変わらないのは「教育」が変わらないからです。教育者自身もそういうシステムの中で教育を受けてきたので、真の教育の「実体験」がないのです。

 

例えば、三権分立などの制度はもともとイギリスを真似てできた制度です。ですが、イギリスは「マグナカルタ」の国で「憲法」は存在しません。一方で、日本はアメリカの「憲法」も真似しています。明治時代、「教育」はドイツの真似をしました。

 

システムの良いとこ取りをしてきましたが、それぞれに整合性はありません。ある意味、システムのコンビニ化です。それぞれの違った歴史哲学や背景を理解せず、マインドは日本流の江戸時代のままなので、lost in translationに陥ってしまう。横に動けない社会になってしまうのです。

 

――「タテ」ではなく「ヨコ」のマインドセットは海外でどのような教育によって獲得されているのでしょうか?

 

世界を目指す意欲ある学生達を引き付ける英米系の大学の学部教育はどんなものか知っていますか?アメリカの大学で読まされる有名な書籍10冊を紹介します。「文系」も「理系」もありません。これを授業の時まで読んでないと議論にも参加できず、授業にも参加させないこともあるといいます。

 

 

このリストで20世紀のものは『科学革命の構造』と『文明の衝突』程度です。これが米国エリートの高等教育の基本なのです。日本の大学でいろんな学生に質問しましたが、こういった書籍を読んでいる学生はほとんどいませんでした。

 

これは元帝国大学教授の社会的責任と言えるかもしれません。「日本全体を見渡して、世界がグローバルになっていく中で、あなたの責任は何なのか」。そういった事をみんなが意識しているでしょうか?一番の問題はそこにあるのではないでしょうか?

 

人間は行動していく中で組織をつくります。その中で、グローバル化していく社会を意識し、自分はどういうポジションであるかを理解し、急激な変化の中でどういった責任があって、それを認識し、具体的にどういった行動をしているか。

 

それは本来、一人一人の「責任」の問題です。今の日本社会はここに一番の問題があります。

 

それでも上手く行っていたから社会が変わらなかった。「Japan As Number One」に甘えてしまっていたわけです。あの時代は、第二次世界大戦で帝国主義が終焉し、共産主義の台頭とともに起こった冷戦や日米同盟というパラダイムがありましたから。

 

――ひいては医療の問題も医療だけでなく、日本社会全体に起因しているのですね。医師出身で医療に留まらない活動をされている理由の一部がわかった気がします。

 

医療は社会のインフラの一部です。政治、教育、医療どっちが大事なんて事はありません。もっと大きなフレームがあって、その中でいまの医療がどうして形作られてきたのかを理解する事が大切です。

 

 

今日をつかむ

 

――全国の学生に一言お願い致します。

 

いくら知識があっても、実体験のないことは 所詮ヴァーチャルで、頭の中の出来事です。実体験ほど大切なことはありません。これらからの世界の将来を一緒に背負っていく世界の仲間達を知ることは、自分の将来にとってとても大事なことです。このような仲間が世界に広がる、ネットでつながっていることができる。日本と世界の多彩な人達を結ぶ「ハブ」に、あなた達、一人一人がなれるのです。春でも、夏でも、秋でも、冬でも、休みのときには、まずは社会体験をする。いろいろ違った世界へ出かけてみることです。私は、特に海外へ出てみることを、皆さんにすすめます。

 

 なぜ「海外」か?それは自分の将来にとって、グローバル世界の課題と自分の可能性に気付く機会が、飛躍的に増えるからです。そして日本を「外から」見る、自分と日本の「良さ、強さ、そして、弱さ」を感じ取れる、より大きな枠組みで日本を見ることができるからです。意識が大きく変わっていく、成長していく自分を実感するでしょう。そのような機会を積極的に増やすことです。

 

時には「自分のしたいことはこれだ。」と気が付くこともあるでしょう。それは心のときめきか、直感か。心がざわめく、「それ」が好きだから、自分の「心の声」だから夢中になれるのです。海外の大学へ短期留学もよし、AIESECによる海外の企業や政府やNGOでのインターン、ボランテイアもよし、ギャップターム、ギャップイヤーなどなど、自分で行動する機会はいくらでもあるのです。

 

 思い切って休学するのも賢い選択です。世界に出ることで自分の夢、大きな目標に目覚め活躍している多くの若者を知っています。皆さんが見違えるような成長をしているのです。だからこそ「外へ出てみる」「休学のすすめ」なのです。世界の自分を見つける「休学のすすめ」。

 

 これからの世界の変わりようはだれにも予測できません。あなた達がそれぞれに世界の中で自分の大きな夢を見つけ 充実した刺激に満ちた毎日を過せれば、こんなに素敵な人生はないでしょう。

 

「いまを生きる」というアメリカ映画があります。寄宿舎生活の「エリート」高校の先生と生徒の交流のものがたりです。私は、なぜかとてもとても感動しました。素晴らしい言葉がいくつも出てくるのです。なかでも「Carpe Diem」というラテン語、「いまを生きる」「今日をつかむ」、この言葉が私の心にとても響いたのです。私も色紙(シキシ)や本にメッセージを求められることがあります。いつも「Carpe Diem 今日をつかむ」と書きます。あなた達のこれからの毎日が「Carpe Diem 今日をつかむ」であるとすれば本当に素晴らしいことです。「Carpe Diem 今日をつかむ」。

(平成25年度東大入学式祝辞参照)

 

 

インタビュワーあとがき

 

医学界だけに留まらず、原発事故調査をはじめ、あらゆる分野を股にかけ、世界で活躍する黒川清先生。

catalystでは、学生に向けて医師の多様なキャリアを紹介する企画を行なっていますが、この企画をやると決めた時、医師のキャリアを学ぶ上で絶対に外せないのは、黒川先生のインタビューだと考えてきました。

活躍の幅が医師としてのキャリアに収まらない先生ではありますが、医療の幅がどんどん広がってきている今だからこそ、そんな黒川先生のお話しが一層重要と感じています。

 

僕が最初に黒川先生を知ったのは医学部に合格した6年前です。それは、これからスタートする医学部での学生生活をどのように過ごそうか考えているときでした。

 

これまで、医学部合格という一点に向かって進んできた生活は、医学部合格という一つのゴールを迎え、私はこれからの学生生活の指針となる新たな目標を探していました。

 

当時は医学部教育がどんなものかもまだわからなかった事もあり、医学教育を受けてからでは異質に感じうるような黒川先生の話が何の偏見もなくすんなりと入ってきたように感じます。

 

そんなときに、ふと書店で手に取った「世界級キャリアの作り方」という書籍、それは黒川先生の著書でした。

 

医学教育を受けてからでは異質に感じうるような黒川先生の話は、医学部教育について無知であった当時の私に、何の偏見もなくすんなりと自分の中に入っていきました。

 

このように、医学部入学前に学生生活の指針を与えて頂いた方は黒川先生でした。

 

そんな黒川先生に、医学部6年生という、今にも学生生活が終わる時期に、ついにご本人に直接お会いでき、インタビューさせて頂くことができました。

 

これは私にとってとても運命的なことであり、大変幸運なことだったと心より感じております。

 

快くインタビューを引き受けて頂いた黒川先生、ご協力いただいた先生方にはこの場を借りて厚く御礼申し上げます。

 

誠にありがとうございました。

 

「今日を掴む」

おわり

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