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「アカデミアとビジネスの両輪で医療にイノベーションを!」 後編

原 正彦先生

現場を変えるための「起業」

 

――今までのお話を聞いているとこれまで臨床研究という分野でかなり突出した実績を残されていますが、そのようなアカデミックな活動からどのような経緯で起業という道に至ったのでしょうか?

 

僕が臨床研究などのアカデミックな活動をしていたのはあくまでも「患者さんによい治療を提供するために現場を変えたかった」という意識からです。

しかし、結果としてアカデミックな活動だけでは現場を変える事はできませんでした。それであれば自分でプロダクトを作って直接患者さんに届けるしかないですよね。だって患者さんによい治療を提供するために現場を変えたいと思って研究しているのに、現場が変わらなかったということであればよい治療を提供するという目的は達成していないわけですからね。「研究」も「起業」もよりよい医療を現場に届けるための「手段」であり、僕は目的達成のためにあらゆる「手段」を使っているだけです。

 

――起業された背景には「頑張っている人が経済的にも報われるエコシステムを作る」という目的もあるんですよね。

 

その通りです。僕の個人としてのフィロソフィーは「頑張っている人が報われる世の中をつくる」という事です。頑張っている人が適正に、アカデミックにも経済的にもきちんと評価され、報われる。そうする事でこれからの日本が盛り上がると思っています。

 

頑張っている医師がアカデミックに報われるための素地は日本臨床研究学会で作りましたが、経済的に報われる素地はまだありませんでした。そこで、僕が行っているのが、医師のアイデアに基づいた会社を設立し、株の一部を持ってもらって、将来的にキャピタルゲイン(株の売買差益)で経済的に報われてもらうという方法です。

 

アカデミックな活動だけでは社会的意義が高くともお金にはならないことが多いので、結局生活のためにバイトにいかなければならないといったことがどうしても避けられません。そんなの全然おもしろくないじゃないですか。

 

アカデミックだけでなく経済的にも報われる方が夢があると思っています。別にお金があれば幸せになれるとは思わないですが、世の中には年収ベースで1億円くらいもらってもいいくらい良い医療を提供したり、後進の育成をしている素晴らしいドクターが沢山います。

 

そういった人のアイデアを産学連携活動に落とし込んで、その人が経済的に報われれば、バイトに行かなくとも本当にやりたい事や好きな事だけに集中でき、結果的に日本が盛り上がると思っています。

 

――良い医療をサステイナブル(持続的)に行っていくためには経済性はとても重要ですね。

 

そうですね。厳しい言い方をすればサステイナブルにしないと自己満足の域を脱してないという事です。その点、「起業」という選択肢はサステイナビリティ(持続性)とは切っても切れない関係です。

 

 

VRAIでリハビリを変える「mediVR

 

 

――mediVRという会社ではどのような事業を行っていますか?

 

mediVRはVR(仮想現実)とAI(人工知能)を活用したリハビリテーション支援機器を開発している会社です。HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を装着し、コントローラーを手にもった状態で手を動かしたり体を動かしたりすると体幹が重心からどれだけずれているのか測定する事ができます。AIを活用して最適な目標値を設定しながら患者さんに合わせたリハビリテーションを提供できるようになる未来を想定しています。

 

歩行機能に何らかの問題を抱えている脳梗塞患者、パーキンソン病患者や高齢者を対象としています。歩行には、下肢の筋力と上半身の姿勢バランス、そして二重課題型の認知処理能力が必要とされますが、mediVRが開発した機器は後者2つの領域、すなわち上半身の姿勢バランスと認知機能を評価し、鍛えるためのリハビリテーション支援機器です。

 

 VRやAIという「World Trend」、定性的なリハビリの定量化という「World Niche」、非言語コミュニケーションによって指示をしたりモチベーションを維持するためのゲーミフィケーションのノウハウという「Strength of Japan」、この3つの要素を活かして世界を視野に事業に取り組んでいます。臨床研究で得た世界と戦うノウハウがビジネスの世界でも活きているわけです。

 

――開発ではどのような事を工夫しましたか?

 

まず、どのような方法で患者さんにアプローチするかはものすごく大事な要素で、工夫した部分の一つです。高齢者にIoT(Internet of Things)デバイスの時計を売ってもなかなかつけてもらえませんが、腹巻きなら使ってくれるといった風に、どういったアプローチがユーザーに響くかという点にはすごく気をつけました。

 

mediVRのVRリハビリテーション機器、mediVR カグラでは「ゲーミフィケーション」という概念を取り入れて高齢者に認知度の高い「水戸黄門」をゲームのテーマに取り入れています。

「entertainment with hidden healthcare agenda」をコンセプトにエンターテインメントの中にヘルスケアの要素が隠れていて、「遊んでいたらいつの間にか歩けるようになっていた」状態を目指しました。

 

世界で展開するためにnon-verbal(言葉を使わない)という点にもこだわっています。例えば、Instagramで日本人に世界中から何十万のフォロワーが付くのもInstagramがnon-verbalで、視覚的に訴えているSNSだからです。そして、もともと日本のゲームはnon-verbal communicationが得意です。例えば、スーパーマリオブラザーズという非常に有名なゲームではゲームの最初に右に動くと画面がスクロールして、左に動くと壁にぶつかるという具合に、non-verbalに右に動くゲームだという事がプレイヤーに言語を用いずに上手く伝わるような仕様になっています。

 

また、mediVR カグラの「神楽」は「神々に捧げる舞」という意味で、「日本文化」という点も意識しました。敢えて海外に合わせるのではなく、日本ブランドを強みにして勝負した方が海外での受けもいいと思っています。

(※mediVR カグラの日経メディカルでの記事はコチラ:https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/201904/560442.html?n_cid=nbpnmo_fbbn&fbclid=IwAR2Z5Tcsz4Yc4FMkXBo98Tm-c6xSBtGhj4nzA8rm4eud2GebAbZKNSv-w70

 

Health 2.0での講演の様子

 

 

ヘルスケアビジネスを回すエコシステムの構築

 

――そもそもmediVRはどのようなきっかけで誕生したのでしょう?

 

 もともとのmediVRのコンセプトは私を含め現場でリハビリテーションのあり方に課題を感じている医師や理学療法士、作業療法士の先生方のアイデアから生まれています。

 

世界ではアイデア自体に価値はなく、アイデアを実現してこそ価値があると言われます。僕は日本の医療現場には面白いアイデアを持っている人物が非常に多いのに、それを実現させることができる人は少ないと感じています。なので、僕は日本では知財やアイデアにもっと価値をおいた上で、それを実現できる人が起業し、ヘルスケアビジネスを回すことでしっかりと現場の先生方が経済的メリットを享受できるようなエコシステムの構築が大事だと思っています。

 

mediVRを皮切りに、医療現場で働く人々のアイデアで世の中にとって価値のあるものを作る会社をどんどん起業していき、そういったエコシステムを構築していきたいと思っています。

 

――原先生は既定のキャリア路線にとらわれず、常に新しい事に全力で挑戦していくイノベーター的な方だと感じます。あらゆるプロジェクトを同時に並行して推し進め、成功させていくために必要な事とは何でしょうか?

 

 一言でいえば、「レジリエンス」(ストレスに対する対応能力)を身に付けることが大事ではないでしょうか。新しいことを行うと必ず批判の対象になりますから、自分の信念に従い、大抵の事ではくじけないようなレジリエンスがイノベーターには必要です。僕の場合は抵抗勢力との戦いも楽しいと思えるようなレジリエンスを身に付けています。例えば簡単にクリアできるゲームをやっても面白くないという考え方に似ています。どれだけ難しいゲームでも、最後には勝てるという確固たる自信が僕にはあります。

 

 今まで、臨床研究等で50個以上のプロジェクトを成功させてきた中でたくさんの抵抗もありましたし、非常に大変な思いも多くしてきました。そのような中でもなんとかすべてのプロジェクトを成功させてきました。そして、その中で培ってきたノウハウの蓄積もたくさんあるわけです。

 

 最近では薬の特許申請の際にいろいろ壁がありましたが、他のプロジェクトで培ったノウハウや交渉術をうまく使いました。弁理士もさじを投げた特許案件を僕たちは取りに行って、最終的には審判請求という手続きまで使って特許を認めさせることが出来ました。その案件は弁理士さん達の勉強会の題材になったようです(笑)

 

 

アカデミアとビジネスの両輪を回しつづける

 

――原先生の今後のビジョンは?

 

日本を元気にするために今後も色々なことを仕込んでいきたいと思っています。

 

取り急ぎの目標はmediVRを上場させることですね。4~5年後を目途にmediVRを上場させ、その資金で大学に寄付講座を設立する等したいと思っています。起業したい医師にアカデミックな立場を用意しながら産学連携活動ができるような仕組みを作りたいと思っています。

 

そして、mediVRのような成功モデルをたくさん作ってエコシステムを回していきたいです。そのような希望のある社会を作りたいと思っています。

 

――大学に寄付講座を作る意味は?

 

多くの医師はアカデミックなキャリアを追求しています。そのような人が自分のアイデアをプロダクトとして実装して現場に届けてみたいという時に寄付講座に所属することでキャリアを切らずに新しいプロジェクトに取り組んでいく事ができます。そうするためには今の日本ではこのやり方が一番現実的だと思っています。

 

僕もいま島根大学の客員教授の肩書を頂いているのですが、アカデミックポジションは今の医者の世界で成功するにはあった方が便利です。仮に僕がビジネスばかりをやっていたとすれば恐らく後ろ指をさされて「あいつはビジネスばっかりやっている」と批判をされていたのではないかと思います。

 

医師の間で起業マインドが広がるまでの間は、アカデミアに所属し、アカデミアでも圧倒的なパフォーマンスを発揮しつつ、ビジネスでも成功しなければならないと考えています。後に続く人はそのような事はないと思いますが、少なくともそういった道を作る立場である僕はそういったやり方でないと後進に道が切り拓けないと思っています。何事も急には変わらないですからね。

 

 

自分の最大幸福を追求する

 

――医大生に一言お願い致します。

 

学生時代は自分の好きな事を精一杯やればいいと思います。自分の最大幸福を追求してほしい。人に何と思われようが自分の信念に従って好きなことをしてほしいですね。

 

学生から日本全体にそういう雰囲気を普及させたいです。若い人が何も遠慮せず、自分のやりたいことに邁進できる世の中になればとても素晴らしいですよね。学生だけでなく、研修医になっても周りを気にせず、自分の最大幸福を追求してほしいですね。

 

自分が不幸だったら人に幸せを与えられるようにはならないと思います。だからこそ、まずは自分が幸せになることです。自分が幸せになってはじめて人に与えられるようになると考えています。

 

――たまに好きな事をやりすぎて途中で退学してしまう学生もいますが、その点はどう思われますか?

 

僕は自分の好きな事をやるために医学部を辞めてしまう人はほとんどいないと思っていて、彼らは単に迷走して辞めてしまっているだけだと思います。本質的には実際にやりたいことがあるわけではなく、例えば時代に流されて起業ブームにのっかっているだけで、それは本当に本人のやりたい事ではないと思いますね。自分に向き合わず、他人の期待に応えようとしている、又は他人から認められたいがためだけにやっているのかも知れません。少なくとも僕にはそう見えます。

 

――医学部を卒業するだけで社会における希少価値はかなり高いですよね。

 

医師免許は圧倒的ですよね。超ゴールドライセンスで、わざわざそれを捨てるという選択肢はないと思います。もし起業や他のことに挑戦したいのであれば別に医者をやりながら起業したらいいわけですしね。

 

経済産業省主催ジャパンヘルスケアビジネスコンテスト2018での優勝シーン

 

 

インタビュワーあとがき

 

今回のインタビューは新進気鋭の若手イノベーター、原正彦先生にお話を伺いました。アカデミアでは世界的学会での表彰、圧倒的な論文数をpublishし、自ら日本臨床研究学会を立ち上げ、ビジネスの世界でもmediVRが大躍進しています。

 

私と原先生の出会いは学生時代に友人に誘われて行った勉強会で、その会のプレゼンターの1人が原先生でした。初めは何の勉強会かもわかっていませんでしたが、原先生の臨床研究やヘルスケアビジネスに関するプレゼンは圧巻で、これまでの実績もさることながら、原先生の医療を変えようとする熱い情熱に引き込まれました。

 

 その後、唐突な申し出にも関わらずインターンとして原先生の下で1年ほどお世話になり、原先生が行っているたくさんのプロジェクトのいくつかに参加させてもらいました。認知症徘徊患者さんに連絡先情報を紐付けたQRコードを開発配布するプロジェクトを立ち上げ、ヘルスケアビジネスコンテストに出たり、市の職員3000名程のメンタルヘルスチェックデータを統計解析ソフトRで解析して、解析結果をまとめて市に説明しにいったり等、他ではなかなかできないとても貴重な経験をすることができました。

 

 その間、他にも「ハングオーバーカム試験」というロキソニンが2日酔いに効くかという日本初の医師を被験者とした薬剤効果を推定するRandomized Controlled Trial(Nationwide Physician’s Study)をクラウドファンディングで行ったりと面白いプロジェクトが多々ありましたし、遠隔医療のクラウドクリニックや現在躍進中のmediVRもその間に立ち上がったプロジェクトでした。

 

 1年間でたくさんの事を学びましたが、中でもとても貴重だった事は原先生の働き方を近くで見る事が出来た事だったと思います。中でも、仕事のレスポンスの速さは特に凄くて、いつどんな連絡をしても本当に速攻でレスポンスがあります(笑)。また、学生であっても仕事内容に対して容赦なく厳しいレスポンスが返ってきますが、その分たくさんのチャンスを与えてももらえたと思います。

 

 SNSでの遠慮ない過激な発言がフィーチャーされがちな原先生ですが、いつも普段批評される事のない上の立場の人を恐れず批評し、決して低い立場で頑張っている人の批判はしない。このようなやり方自体は決してきれいな戦い方とは言えず、むしろ泥臭い一面もあるかも知れませんが、様々な医療のねじれに恐れを抱かず一貫して発言する原先生の姿には日本の医療を変えようとする相当な覚悟と自信を感じます。

 

大胆な変化を避け、パッチワーク的な対応によってねじれた日本の医療の未来には原先生のような大胆なイノベーターが必要かもしれません。今後も原先生の活躍に注目です!

 

↓原先生のヘルスケアブログは以下から

ヘルスケアビジネス立ち上げのための極意ブログ
haramasahikoさんのブログです。最近の記事は「ヘルスケアビジネス極意ブログ「第2章 2-5. 各論④ Ethicalであれ」(画像あり)」です。
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